貸家・貸家建付地の財産評価について大阪高裁「空室期間は重要な要素」

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 5/11、大阪高裁において不動産賃貸業の方や税理士も注目の判断がくだりました。
貸家・貸家建付地の評価における一時的空室部分の考え方について、「空室期間が重要な要素となることは明らか」と指摘しました。

 

 近年、低金利や相続税対策に伴う不動産投資が活発になっていますが、空室が多くなればキャッシュフローへの影響はもちろんのこと、相続税評価にも影響がありますのでご留意ください。

 

1.貸家・貸家建付地の評価方法

 

貸家・貸家建付地の評価は下記のとおりです。
課税時期における「賃貸割合(≒空室割合)」を加味するのがポイントです。

 

 

 

2.具体例

 

例えば、1棟20室の貸家(床面積は全室同じと仮定)を所有している場合で考えてみましょう。

 

自用家屋の価額:5,000万円
借地権割合:70%

 

①賃貸割合が100%(満室)の場合
自用家屋5,000万円―自用家屋5,000万円×借地権割合70%×賃貸割合100%=貸家の評価額1,500万円

 

②賃貸割合が50%(半分の10室が空室)の場合
自用家屋5,000万円―自用家屋5,000万円×借地権割合70%×賃貸割合50%=貸家の評価額3,250万円

 

上記の例では、賃貸割合によって相続税評価額が1,750万円も変わってきてしまいます。
相続発生時期において、満室であれば評価額は安くなり、空室割合が高くなればなるほど評価額は高くなります。

 

3.空室がある場合の賃貸割合の考え方

 

賃貸割合が重要なことはわかっていただけたと思いますが、この論点を複雑にしているのは、相続開始日時点の入居or空室のみで判断するわけではないということです。
財産評価基本通達26において、「課税時期において、一時的に賃貸されていなかったと認められるものは賃貸している床面積に含めて差し支えない」とされています。

 

そして、この一時的に賃貸されていなかったと認められるかどうかは、下記の事実関係をもとに総合的に判断するとしています(国税庁の質疑応答事例より)。

 

・各独立部分が課税時期前に継続的に賃貸されてきたものかどうか、
・賃借人の退去後速やかに新たな賃借人の募集が行われたかどうか
・空室の期間、他の用途に供されていないかどうか
・空室の期間が課税時期の前後の例えば1ケ月程度であるなど一時的な期間であったかどうか
・課税時期後の賃貸が一時的なものではないかどうか

 

このように、曖昧な規定となっているため、各税理士の解釈によってその判断が異なっているのが現状です。

 

4.今回の大阪高裁の判断

 

 「空室期間が重要な要素となることは明らか」としたうえで、本件の最短空室期間の5か月は長期間と指摘しました。
 上記3に記載したとおり、総合的な事実認定により判断するのは変わりませんが、今回の裁決が今後の実務に影響してくるのは必至なので、これを踏まえて今後の対応を考える必要がありそうです。

 

執筆者:税理士 藤田 賢

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