海外財産にも相続税はかかる?海外財産に係る税務調査件数は?
目次
はじめに
国税庁が公表した「令和2年分の国外財産調書の提出状況について(令和4年2月公表)」によると、総財産額は4兆1,465億円あり、その内訳は有価証券2兆1,225億円(51.2%)、預貯金7,208億円(17.4%)、建物4,523億円(10.9%)と並んでいます。
令和3~4年の株高やインフレなどを考えると日本人が有する国外財産は更に増えていることでしょう。
海外に資産を移転することで相続税課税を免れようとするケースが増えていますが、合法的に納税義務者及び課税資産から外す場合を除き、税務調査等で追徴課税される可能性は非常に高いです。
海外財産についても国内財産と同様に適正に申告される方が増えるよう、本ブログにまとめてみました。
海外財産は相続税の課税対象になる?
基本的に、被相続人または相続人のいずれかまたは両方が日本に居住している場合は世界のどこにあってもその財産は相続税の対象になります。
一方で、被相続人と相続人が相続開始前10年超にわたり国外に住所がある場合における海外財産は日本国における相続税の課税対象にはなりません(※)。
平成29年度税制改正前は、10年超でなく5年超で良かったため、シンガポール等に海外移住して相続税負担を回避するケースが相次ぎましたが、この税制改正以後は倍の期間に延びたため、諦めるケースも増えているものと思われます。
※短期滞在の外国人や日本国籍がない場合は例外的な取扱いがありますが簡便的にここでは触れません。
海外財産についてはどれくらいの税務調査件数がある?
実際に公表されている数字で見てみますと、国税庁が公表した「令和3事務年度における相続税の調査等の状況」において、海外資産関連事案の実地調査件数は660件(対前事務年度比119.8%)で、申告漏れ等の非違件数は115件(対前事務年度比119.8%)申告漏れ課税価格は56億円(対前事務年度比163%)と増加傾向にあります。
国外財産調書とは
日本人における国外財産の保有が増加傾向にある中で、国外財産に係る申告漏れなど課税の適正化を図る観点から、平成26年1月より開始された制度です。
日本居住者が年末において5,000万円を超える海外財産を有しているときに、海外財産の種類、数量及び価額その他必要な事項を記載した国外財産調書を提出しなければならないとされています。
なお、国外財産調書を提出せず、申告からも除外していたものが税務調査等で判明した場合、過少申告加算税等のペナルティが5%加重される措置があります。
また、国外財産調書に偽りの記載をして提出した場合または正当な理由がなく国外財産調書を提出期限内に提出しなかった場合には、1年以下の懲役または50万円以下の罰金に処されることがあります。
CRS情報により海外口座は税務署に筒抜けに⁉
CRS情報とは、外国の金融機関等を利用した国際的な脱税等に対処するため、各国の税務当局が連携して非居住者の金融口座情報を提供するものをいいます。
令和4年2月に国税庁から公表された「令和2事務年度における租税条約等に基づく情報交換事績の概要」によると、日本居住者に係るCRS情報約191万件(口座残高12.6兆円)を87か国・地域の外国税務当局から受領し、外国居住者に係るCRS情報約65万件(同6.8兆円)を70か国・地域の税務当局に提供したと記載されています。
このCRS情報により、海外預金口座の存在が明らかになり、預金のほか、当該口座に入金があったことで海外不動産の存在も明らかになった事例がありました。
令和2事務年度における租税条約等に基づく情報交換事績の概要(令和4年2月国税庁)
海外でも相続税が課されるときは外国税額控除
海外にある財産について、相続発生により現地国において相続税に相当する税が課されることがあります。
先で説明したように、被相続人または相続人のいずれかが日本居住者の場合は、財産が世界のどこにあっても日本において相続税が課されます。
1つの財産について、日本と財産がある現地国の双方で税金が発生すると二重課税になってしまいますので、これを排除するために外国税額控除という制度があります。
適用要件を満たす方は忘れずに適用しましょう。