相続に関わりたくない!相続放棄と相続持分譲渡
お客様と面談をしていると、「今回の相続には関わりたくないです。」と相談を受けることがあります。
故人や他の相続人と関係が良好ではない方や単に何も相続したくない方など理由は様々ですが、相続に関わりたくないという方々が一定数いらっしゃいます。
そのような方々にお伝えしたいのが「相続放棄」と「相続持分譲渡」という制度です。
相続放棄とは?
相続放棄はご存知な方も多いかもしれません。
相続放棄は、相続開始を知ったときから3カ月以内に家庭裁判所に申立てをすることで、相続人という立場を放棄し故人の権利や義務を一切引き継がないようにする制度です。
よく「自分が放棄をして自分の子ども(故人の孫)に相続させることは出来ますか?」「債務などのマイナスの財産のみを放棄することは出来ますか?」といった質問を受けますがどちらも出来ません。
相続放棄をすると、“相続が開始した時からこの人は相続人ではなかった”とみなされるため、相続権は引き継げず、マイナスの財産だけではなくプラスの財産も当然に引き継げなくなります。
相続放棄については、こちらの記事でも説明していますのでご確認ください。
プラスの財産よりマイナスの財産が多かった!
相続放棄をしても相続税申告が必要になる?
相続持分譲渡とは?
相続持分譲渡は、自分の相続持分を遺産分割協議・遺産分割調停の成立までに他の相続人または相続人以外の第三者に無償または有償で譲渡する制度です。
民法には相続持分譲渡についての直接の規定はありませんが、民法905条1項が相続分を譲渡する場合を想定していることから、相続持分を譲渡することが出来ると一般的に解釈されています。
①共同相続人の1人が遺産の分割前にその相続分を第三者に譲り渡したときは、他の共同相続人は、その価額及び費用を償還して、その相続分を譲り受けることができる。
相続放棄とは異なり、家庭裁判所への申立は基本的に不要で当事者間の合意のみで成立しますので、煩わしい相続関係をすぐに終了させることが出来ます。
「特定の財産のみを譲渡することは出来ますか?」といった質問を受けますが、あくまでも持分をいくらかの割合で譲渡することになるため出来ません。
(遺言がある場合にはそもそも相続持分を譲渡できない場合があります。)
なお、第三者に譲渡した場合、他の相続人は譲渡から1か月以内であれば「相続分の取り戻し権」により、譲渡された分を取り戻すことが出来る場合があります。
相続放棄と相続持分譲渡どちらを選ぶ?
相続放棄と相続持分譲渡の大きな違いは債務の取り扱いです。
相続放棄の場合は、先に述べたとおり債務を放棄することが出来ますが、相続持分譲渡の場合は持分を譲渡したとしても債務は負担しなければなりません。
よって、債務を負担したくない場合には相続放棄を選択し、「債務がない」もしくは「債務を負担してもよい」場合には相続持分譲渡を検討されるのが良いでしょう。
また、相続放棄をした場合は放棄者の持分を残りの相続人で分割することになりますが、相続持分譲渡の場合は自分が選んだ相手に持分を渡すことが出来るという違いがありますので検討するうえで参考にしてください。
相続税申告への影響は?
相続放棄・相続持分譲渡を行った場合、相続税の基礎控除は相続放棄・相続持分譲渡がなかったものとして扱われ、通常どおりの「3,000万円+法定相続人の人数×600万円」となります。
なお、相続持分譲渡についての課税関係は複雑ですが以下のようになります。
(1) 相続人に無償で持分を譲渡した場合
譲渡した側には税金は発生しませんが、譲受人は取得した財産の他、譲渡された分も含めた金額で相続税が発生します。
(2) 相続人に有償で持分を譲渡した場合
仮に1,000万円で譲渡したとすると、譲渡した側には1,000万円を取得したとして相続税が発生し、譲受人は1,000万円の代償金を支払ったとして、取得した財産から1,000万円を控除した金額で相続税が発生します。
(3) 第三者に無償で持分を譲渡した場合
譲渡した側にはいったん相続したものとして持分の金額で相続税が発生し、譲受人は贈与があったものとして贈与税が発生します。
(4) 第三者に有償で持分を譲渡した場合
仮に1,000万円で譲渡したとすると、譲渡した側にはいったん相続したものとして持分の金額で相続税が発生し、さらに相続した財産を譲渡したということで譲渡所得も発生することがあります。
譲受人には税金が原則発生しませんが、適正価格を下回って譲渡された場合には贈与税が発生することがあります。
このように相続持分譲渡については、ケースによって課税関係が変わりますので、持分を譲渡する場合には専門家に相談されることをおすすめします。
相続放棄も持分譲渡もしたくない
相続放棄の申立ては大変そう、自分の相続持分を譲渡したい人もいない…という方もいらっしゃるかもしれません。
この場合、相続に全く関わらないということは出来ませんが、遺産分割協議に参加し自分は何も相続しないといった内容で分割をする方法があります。
実際には一番よく利用される方法で、相続に全く関わりたくないわけじゃないけど…といった場合にはこの方法が利用されます。
以上のように相続に関わりたくない場合は、相続放棄や相続持分譲渡といった制度がありますので、将来的に自分がどうしたいのかを予め検討し準備しておくといいでしょう。
特に相続放棄をする場合や相続税申告がある場合には、期限があるため相続が発生してからでは検討する時間に余裕がないことが多いです。
「もっと早く知りたかった」「やっぱりこうしておけば良かった」なんて話をよく聞きますので、相続で後悔しないようにぜひ予め準備していただければなと思います。