アパート・マンションなどの評価 賃貸割合は考慮していますか?
不動産賃貸業を営んでいるオーナーの方が亡くなった場合、その不動産賃貸業は相続人の方が引き継ぐのが一般的ですが、相続税申告が必要な場合は当然この賃貸不動産についても評価を行う必要があります。
例えば「自分が住んでいる住宅」、「子や親に無償で住まわせている住宅」、「未使用の空き家」などの評価額は固定資産税評価額をそのまま用いるため、その評価方法や評価額が問題になることはほとんどありませんが、貸家や貸アパート(以下「貸家等」といいます)の場合はそう簡単にはいきません。貸家等の基本的な考えとして借家権が存在するからです。
借家権とは
借家権とは、平たく言えば借主がそこに居住する権利のことです。大半の方が賃貸物件に居住されたことがあると思いますが、もしも「違う人に貸したいから明日中に出て行ってくれ」とか「アパートを取り壊すから来月中に出て行ってくれ」と言われたら困りますよね。貸家等の所有者はもちろんオーナーですが、入居者の住環境を保護するために借家人の方に与えられている権利があるのです。
これをオーナーの視点で見た場合、「自分が所有している物件なのに一定の制限が設けられてしまっている」ということになるため、相続税の評価においてもこの借家権による制限を建物評価額から控除して評価する形になります。
借家権は一律30%であるため、具体的な評価方法は下記のイメージになります。
■貸家等の固定資産税評価額:1,000万円
■貸家等の賃貸割合:100%
∴1,000万円×(1-30%)=700万円
ちなみに、上記で「子や親に無償で住まわせている住宅」は固定資産税評価額をそのまま用いる旨を説明しました。これは無償の場合は借家権というものが存在せずに「使用貸借」という扱いになるためです。
この使用貸借は民法で定められているのですが、借主は無償で借りているという性質からその権利を保護する必要性が薄れることになり、結果として借主の権利である借家権を控除する必要がない(評価額を下げる必要がない)ということになるのです。
なお、有償だとしてもオーナーの固定資産税相当額を負担する程度の費用負担であればこれも使用貸借として取り扱うことになります。
相続開始日時点の賃貸割合も考慮する
さて、貸家の評価ですがこれで評価が終わるのであれば何の難しい論点もありません(固定資産税評価額に0.7を乗じるか乗じないかだけですので)。先ほどの簡単なイメージ例で「貸家等の賃貸割合:100%」としましたが、実際には「相続開始日時点の賃貸割合」を考慮して評価を行う必要があるためこの算定も行う必要があります。
なお、賃貸割合は床面積を基に算定するため、単純に入居率を用いるのは誤った評価額に繋がる可能性があります。
全て同じ間取りであれば問題ないですが、例えば1LDKや2LDKなど様々な間取りがある場合は当然部屋の広さも異なります。
1LDKが10部屋満室で2LDKが10部屋空室の場合と、1LDKが10部屋空室で2LDKが10部屋満室の場合であれば賃貸割合(入居者が存在している床面積の割合)も異なるからです。
更に言えば、相続開始日がたまたま入居者の引っ越し直後のため空室になっているが、その前後においては継続的に入居者が存在していたなどのケースもあります。この取り扱いについては国税庁の質疑応答事例で下記のように公表されています。
「継続的に賃貸されてきたもので、課税時期において、一時的に賃貸されていなかったと認められる」部分の範囲
アパート等の一部に空室がある場合の一時的な空室部分が、「継続的に賃貸されてきたもので、課税時期において、一時的に賃貸されていなかったと認められる」部分に該当するかどうかは、その部分が、
1.各独立部分が課税時期前に継続的に賃貸されてきたものかどうか、
2.賃借人の退去後速やかに新たな賃借人の募集が行われたかどうか、
3.空室の期間、他の用途に供されていないかどうか、
4.空室の期間が課税時期の前後の例えば1ケ月程度であるなど一時的な期間であったかどうか、
5.課税時期後の賃貸が一時的なものではないかどうか、
などの事実関係から総合的に判断します。(引用:国税庁HP)
これが複数棟所有していて部屋数も多い場合、その検討に費やす時間もそれに比例して増加することになります。ちなみにサブリースのように1棟貸の場合は空室があっても賃貸割合100%で算定します(契約によってオーナーは全部屋を不動産管理会社に貸しているため、その後の空室の有無は問う必要がないのですね)。
「入居率が高い=借家権が多数存在する=相続税評価額も減額される」となりますので、相続税対策としても入居率のアップは望ましいところです。
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執筆者:税理士 佐藤友一