相続税上の基礎控除額の大幅引き下げ(4割減)が平成27年から実施され、中小企業オーナーの相続時にはかなりの確率で相続税申告が必要となりました。基礎控除額は、3000万円+600万円×法定相続人の数、となっており、自社株式の評価額や現預金等のその他の財産評価額の合計額がその基礎控除額を超える際には申告義務が発生します。
中小企業オーナーの中には自社に対し貸付をしているケースがありますが、その貸付金(法人にとっては役員借入金)も基本的には全額相続財産に計上する必要があります。
中小企業オーナーの相続時で問題となることとして、相続税評価額は基礎控除額を超えるが自社株式の評価額と自社への貸付金がほとんどで現預金等の納税資金となる相続財産がないケースがあります。自社に現預金が多くあれば対策を取りやすいのですが、自社にも現預金がない場合には、不本意な結果となりかねないため、まずは自社株式の評価を含めた財産の洗い出しを税理士等の専門家と一緒に実施することをお勧めいたします。その上で、下記の検討をする必要があります。
1. 自社株式を後継者が単独で相続できるよう対策をとること
会社法の観点から、後継者は自社の重要事項を単独で決定できるように自社株式の3分の2超を取得していることが望ましいです。そのため、中小企業オーナーは生前に自社株式を後継者に贈与するか、もしくは遺言書に自社株式を後継者に全て相続させる旨を記載する等の対策をとる必要があります。
2. 事業承継税制を利用することにより納税額の猶予を受けることができる
令和4年3月31日までに都道府県に認定申請書を提出している等の一定の要件を満たす必要がありますが、平成30年改正の事業承継税制により、後継者が取得する自社株式の贈与税、又は相続税について、全額納税猶予が受けられるようになりました。なお、この税制は令和9年12月31日までに贈与又は相続により後継者が自社株式を取得している必要がある期限が定められている税制となります。自社株式の評価額が高くなる傾向にある中小企業オーナーは税理士等と相談の上、平成30年改正の事業承継税制を受けられるように対策と検討をするべきだと思われます。
3. 遺留分の減殺請求により後継者が不利な立場とならないような対策をとること
中小企業オーナーの遺産分割では後継者以外の相続人に対する配慮も重要となります。中小企業オーナーの相続時には相続税評価額のうち、自社株式評価額が大部分を占めるケースが多く、自社株式を後継者に相続させた場合、他の相続人が満足な財産を取得することができず、後継者は遺留分の減殺請求を受ける可能性がでます。ただ、この場合、後継者も相続している財産は自社株式しかないため、現預金等による代償分割を行うことが困難となります。そのため、あらかじめ下記のような対策をとる必要があります。
- 生前に中小企業オーナーから後継者以外の相続人に財産を贈与し、それと引き換えに遺留分の放棄をしてもらう
- 生命保険金・退職金を活用し、後継者以外の相続人にも相続財産が分配されるようにする
自社株式の評価方法、平成30年改正事業承継税制、遺留分の減殺請求、相続税対策等、中小企業オーナーの相続については考慮すべき内容が多岐にわたり、自社の存続を左右するほど重要な内容となります。そのため、事前の対策等を含め、相続税に強い税理士に一度ご相談されることをお勧めいたします。