生前贈与の失敗例~本当は怖い相続税対策~

相続税上の基礎控除額の大幅引き下げ(4割減)が平成27年から実施され、以前では相続税申告とは無縁であった中流階級の方々(例えば都市圏に一軒家をお持ちのごく普通のサラリーマン家系の方々)でも相続発生時(亡くなられた時)に相続税申告が必要となるケースが増えました。それに伴い、テレビ・書籍・ネット上では相続対策の重要性を説く記事が数多く見られるようになりましたが、下記の理由から相続が発生した際に相続税額を引き下げる効果が認められず、結果として相続税額が非常に多くなり、後悔されている相続人方が多くいます。

  1. 相続対策は相続発生時に相続対策の旗振り役であることが多い被相続人(亡くなられた方)がもう存在せず相続対策の全体像や理論構築が相続人には把握しにくいこと
  2. そもそも相続税法に詳しくない方では税務署視点としての節税のための理論構築が難しいこと

 法律に詳しくない方が相続対策を確実に実行することは難しいと、個人的には考えます。基本的に相続対策は相続対策のプロである税理士を交え、後々問題にならない事実と法律に基づいた証拠を積み上げる形で実施するべきだと思います。ただ、それでもご自身のみでやりたいという方々に向け、相続開始後に後悔される方々を少しでも減らせることを願い、以下では自己流の相続税対策で失敗されている方の中でも多く見られる失敗例を記載いたします。

■贈与と見なされない

 相続対策として一番メジャーかつ効果的な方法が生前贈与です。ただ、その知名度と効果から税務署としては贈与が成立しているか、本当は相続財産なのではないかといったチェックを必ず実施するといっても過言ではありません。

 失敗例:甲さんは息子A、息子B、孫C、孫Dの口座を管理しており、生前から贈与税の非課税枠を利用して毎年100万円ずつ10年間、合計4000万円を4口座に資金移動していました。甲さんの相続開始時の相続税率は30%予想のため、この対策により1200万円の節税に成功したと思っていました。しかし、実際に相続が発生した後にこの内容を税理士に相談したところ、この4000万円は贈与が成立しておらず、甲さんの名義預金に過ぎないため相続財産に計上しなければならない旨を伝えられました。

そもそも贈与とは

 贈与とは「契約」です。財産を無償で与える意思表示とその財産を受諾する意思表示が必要となります。

 親が子供・孫名義の銀行口座を管理しており、親が独断で親の口座から子供の口座に入金していたというケースに数多く遭遇します。この場合、子は財産を受諾する意思表示をしていないため、入金した財産は名義預金となり、贈与されていない親の財産のままとなります。贈与を成立させるためには、あくまでの双方の意思表示が必要となります。

 実際に税務署がその事実をどのように把握するかはケースバイケースだと思いますが、少なくとも親と子供の居住域が異なっているケースで、明らかにその口座が親の居住域でのみ使用されている場合、税務署がその履歴を追うことは容易なため、簡単に見破られると思って間違いありません。また、税務署は証拠を積み上げて事実を明らかにするプロです。プロに対して素人が事実と異なった申告をすることは得策ではなく、脱税にもなってしまうため、絶対にやめましょう。

 やるべきことは最初から実際に契約を有効なものとすることです。親が亡くなった後に贈与の事実を証明することは難しいので、親族間であっても贈与契約をする際は双方が自筆押印した贈与契約書を作成することをおすすめいたします。贈与契約書がないことにより、生前贈与について否認されたケース(東京高裁平成21年4月16日判決)もあるため注意が必要です。